夢小説のボツ
物心ついた時から、頭の中に「知らない記憶」があった。その記憶の中の私は、30代ぐらいで、どこかの小さい会社で働いていたと思う。その記憶が薄々、自分の前世らしいことには気づいていた。大したことない前世だった。
そのせいか、私は随分他の子に比べて落ち着いている。今私は小学四年生だが、少し気味悪がられる位だ。まぁ、この小さな町で、あんまり関心を寄せられて話しかけられても困るから助かっているのだが。
そんな訳で、今日も小さな公園のベンチで、穏やかに本を読んでいた。江戸川乱歩傑作集、まさかこの学校にもあるとは。
「あー!おばけだ!おばけがいるぞ!」
きゃいきゃいと子供のはしゃぐ声がする。元気だ、そしてのどかだ。と思っていた矢先、ぽつ、と背中に石が当たる感覚がした。
ちらりと声の先を見ると、予想通り、男の子達が石を持っていた。まぁ、年頃の男子にはよくある事か。
「やーい、おばけ!」
ああ、でもこういうのって大人が訂正してあげた方が良いとも言うな。困ったふりをしていたら周りが助けてくれるかもしれないけど、それでは反発を産む。この子達の為にはならない。
本に栞を挟んで、ゆっくりとその男の子達に向き直った。
人数は四人。石を持っているのは一人。
歩いて五歩の距離にいた。
その間、ずっと男の子の瞳を見つめて歩みを進めていく。
彼はもう、半ば手を下ろしていた。
その下ろした手首に指を絡ませ、石を捨てさせる。
そうして一言、「いけないよ」と。
微かに細かくカチカチと音がした。
そうすると他の男の子が涙声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りだしたので、怯えさせないように微笑むと、その子達は走ってどこかに行ってしまった。
そんな少年たちを他所に、またベンチに戻る。聞き分けのいい子達で良かった。と本を開こうとしたら、自分のヘアゴムが切れていたことに気がついた。しかも今日黒のワンピースを着ていた。......これじゃお化けだと言われても仕方ない。日も落ちてきたし、そろそろ帰ろうか。
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